笑えない

ドキみきNightで,夏限定企画として,プチ恐怖体験を募集しているけど,投稿するには,ちょっとアレな感じがしたので,ここに載せておこう.長いし.
一人暮らしの人なら,分かってもらえると思うけど,家の電話ってほとんど使わないし,かかってきても出ることはない.そのほとんどが,セールスの電話だから.知り合いは,携帯に直接かけてくるしね.インターネットに使う以外には,役に立っていない.
昨日,仕事から帰ってきたら,その直後に,家の電話が鳴り出して,いつものように放っておいた.留守電メッセージが流れて,そのまま電話は切れた.まあ,いつも通り.
と思ったら,すぐにまた電話が鳴り出した.さすがに出てみようか,と思ったけど,知り合いは,まず携帯にかけてくるし,家に着いた直後にかかってきた,というのも妙に気になって,そのままにしておいた.留守電メッセージが流れて,やっぱり何も言わずに,電話は切れた.
それから,まもなくして,今度は家のチャイムが鳴った.2回ぐらい.隣の部屋ではないらしい.直感で,同じ奴だな,と思った.
玄関に向かうまでの間,いろんな顔を思い浮かべた.夜の8時.外は雨.そんな状況で訪ねてくる人間は,そうはいなかった.念のため,ドアにチェーンを掛けた.
外の様子をうかがうと,現れたのはやはり,予想していた顔だった.始めに断っておくと,相手は男だ.
彼は,元は会社の同期だった.といっても,特別仲が良い,というわけではなかった.お互いに,同期という意識はあるけど,ごくありがちな,会社だけの付き合い.
入社から1年ぐらいして,彼は会社を辞めた.理由は,よく知らなかった.他にやりたいことがある,とかなんとか.辞める理由としては,特別変わったものでもなかった.その後,連絡はなく,しばらくの間,僕はその存在を忘れていた.
突然,電話がかかってきたのは,ゴールデンウィークの少し前くらいだろうか.無性に僕と話がしたいんだとか.それも,電話では物足りなくて,顔を見て話がしたいと.2人きりで.まあ,そういう場合,大抵は危ない話だ.宗教か,セールスか,その両方か.
知らない相手ではないので,そういうことを言い出しづらかったけど,なかなか電話を切ろうとしないので,ハッキリ言ってみた.宗教か,セールスか,何にしろ,危ない話はゴメンだと.彼は,肯定も否定もしなかった.同じ話を繰り返すだけだった.会いたい,と.たぶん,そういうことなんだろう,と思った.
2人きりでは会えない.同期のみんなが集まった時にでも,その話はしよう,と僕は言った.それで,ようやく電話は切れた.納得してくれた,と思っていた.タテマエも含めて.みんなが集まる時なんて,永遠に来ないのだ.
でも,彼は玄関の前に立っていた.夜の8時に,傘を差して.今まで遊びに来たことなんて,一度だって無いのに.久しぶりに見た顔は,少し笑っていた.