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江戸っ娘。忠臣蔵」。というタイトルからして内容にかなりの不安があったわけですが,実際に見に行って,まあ予想通り,というか,予想以上に台本は酷かった.これについては後ほど書くとして,まずは,主な目的であった「あづき姫」について.
強気で世間知らずなお姫様.というのが藤本美貴が演じる「あづき姫」で,これ以上ない配役だなあ,と思う.時折,刺すような視線だったり(この人はデフォルトの顔が不満顔である),ぶっきらぼうな物言いでトゲトゲしい印象を与えている藤本美貴だけれども,そういう点が「姫」らしさ,につながり,違和感がない.ただ,それだけだと単に冷たい印象で終わってしまうけれど,何となく憎めない気がするのはその声の甘さ.ワガママはワガママだけれど高圧的,というよりは甘え,に近いような声なので,嫌味な印象を残さない.それもまた愛される存在,「姫」らしさ,につながる.とまあ,ファン視線のベタ甘な評価だけれども,必死,というよりか,僕の正直な感想はこれである.
演技力について.どれだけ役になりきれたか,という点では,既に書いた通り,役がうまくはまっていたので,これ以上書くことは無い.心配していた活舌の方も,問題は無かった.特に強弱をつけて活舌良く,なんてことは無くて,自然と台詞が口から出てくる印象.何か評価甘すぎ? だけど,そう思ったんだからしょうがない.やりきる,とか,なりきる,という点について,すぐに照れや,恥ずかしさを感じる人だけれども,さすがに舞台の上ではそういった印象を全く感じさせなかった.
ただ,笑い上戸なところはどうにもならないみたいで,町人に「タコッ!」と言われるシーンで,
「タコ...」
とツボに入ってしまったらしく笑い出し「こらえろー!」とアドリブでツッコまれていた.まあ,そういうのも生の魅力ってことで良いのではないかと.そんなキュートな一面が,観客の,主に僕の,ハートをがっちりつかんでいたように思う.
酷いと書いた台本の方はというと.話が支離滅裂というのではなくて,一応つながってはいるんだけど,つなぎ方が強引過ぎる.安倍なつみが例によって父親と対立し(これは毎回そうなんだけれど,その主張が現実味を欠いていて共感できない),無謀な計画を立て(町人が武家の屋敷に討ち入りて),父親が助けに来るんだけど,それが山場かと思いきやいきなりフェードアウト.最後は遠山の金さん的に一件落着て.落着どころか謎多すぎ.
何が一番まずかったって,忠臣蔵と話がつながってるんじゃなくて,単に血がつながっているだけ,というのがまずい.これが話をややこしくしている.「暴れん坊将軍」とか「遠山の金さん」をモチーフに,姫が町に下りて人を救う,勧善懲悪ものにした方が話の流れとしてはスムーズ.もう一つは,討ち入りするだけの実力を登場人物に持たせないと辻褄が合わない.前半はきちんと練られているのに,後半は放り投げてしまった印象.
前回,前々回のミュージカルでは,各メンバーにそれなりの見せ場,ソロパートがあったけれど,今回はそれも無い.ソロパート無し,というのは,ファンに対してだけでなく,メンバーに対してもマイナスの影響が大きいように思う.ソロパートを乗り越えて一段上に成長する,というのがミュージカルのひとつの目的だったように思うけれど,今回の場合は,これを通過しても糧となるものは少ないように思う.「モーニング娘。のミュージカル」というカテゴリに属さない,もはや別モノである.
楽しいか,楽しくないか,と言われたら,楽しめる要素はあるにはある.ただ,それはTV番組の延長線上の,たとえるなら「ハロー!モーニング。」のような面白みであり,それは,期待されている「モーニング娘。のミュージカル」とは別モノなんじゃないか,と思う.
長くなったので,ミニライブの方は日を改めて.